熊レンジャーお話会 of Organic Crossing

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OC Event & Workshop ワークショップリポート

熊レンジャー五味くんお話会 2011/04/16

野生からのメッセージ 森里人の物語

本州にグリズリーベアーはいない。

P1010206.JPG熊と聞くと大半の人の頭をよぎるのは、立ち上がると人間の背丈よりも大きく、牙をむき出しにして襲いかかってくる「グリズリーベア」のイメージ。僕もそうでした。でも五味くんの話を聞いてビックリ!

北海道に生息するヒグマはさておき、本州にいる月の輪熊(岡山を例にとると)は通常身長120cm程度。五味くんが出会った最大の大きさでも150cm程度なんだそうです。立ち上がると大きいですが、歩いているときは人間の4歳児ぐらいの大きさ(横幅は違いますが)。

熊レンジャーに入る通報でよくあるのが「小熊を見た!」という目撃情報。これが確認するとほとんど成人なんだそうです。熊って以外に小さい。

都会に住んでいると「熊」と聞いてもすこし遠い存在のようですが、中国道を岡山方面に走れば、高速道路沿いに「熊棚」と呼ばれる痕跡が普通に見られるそうです。僕たちが気づいていないだけで熊って案外身近にいるんですね。

熊といえばたくさんの方が連想するのがハチミツではないでしょうか?これは正解!
熊はハチミツが大好きで、蜂の巣を見つけると刺されようがなりふりかまわず食べます。また柿や栗、ブドウなども大好き。なぜか必ず値段の高いものから食べるという現象もあるのだとか(笑)

熊が木に登って枝をたぐり寄せながら柿や栗を食べるときにできるのが、さきほど紹介した「熊棚」。熊が木の上で実を食べると、そのおこぼれが下に落ち、それを待ってました!とばかりに鹿や猪をはじめ小動物が食べる、というサイクルがあるのだそうです。

熊は怖い動物?

しかしここまできても熊は力が強く怖い動物というイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか?昨年、「熊が人間を襲った!」というニュース が連日のように報道されていたのは記憶に新しいと思います。

ところが、五味くんの話では熊はとても臆病な動物で、よっぽど興奮していない限り、人間を見るとまず逃げるんだそうです。大きな音を立てても逃げます。ただ、ビックリすると一撃を加えてから逃げるという習性があり、これにやられると危ない。けれど、普段は野イチゴや木の実、柿、栗などを食べて、おなかがいっぱいになれば木の上でドタ~っと寝るような可愛い一面もあります。写真を見ればクスッと笑ってしまうはず。

では昨年なぜあんなにニュースになったのか?大げさな報道の問題もありますが、実は2010年は山の木の実が大凶作。熊だけでなく、鹿や猪、小動物なども山に食べるものがなかったことが大きな要因だったといいます。それを証明するデータがあります。

例年で言えば、五味くんが対応する熊は通常、年1~2頭、多い年でも年15~16頭だったのが、2010年はなんと60頭!熊レンジャーや猟師さんだけでなく、国も驚き、急遽生息数を調べなおすという作業が必要になるほど大変な数字でした。その一年前の2009年、この年は山の木の実の大豊作でした。するとどうでしょう、熊どころか鹿や猪まで里にまったくでなかったのだそうです。猟師さんが「捕りすぎた!」と後悔するほどだったのだとか。

このデータを見るとわかるのが、山に食べ物があれば野生動物は里に下りてこないということ。ただ動物たちが里に下りてくるのには別の問題もありました。

人間が変えてしまった動物たちの行動パターン

P1010214.JPG別の問題というのが、山や森で人間がしている植林や公共事業。

たとえばお金にならないので放置された杉やヒノキの林。ビッシリとならんだ針葉樹の暗い森には下草が生えず、動物たちの食べ物は生えません。また切り倒すだけの間伐も問題。四方八方に倒された木は動物たちの道をさえぎり、以前は行けた餌場までたどり着くことを困難にしています。

また山の中に突如として現れる「スーパー林道」の類。車は通りませんが、野生動物たちはこの道を通って里に下りてきます。自業自得はこのことでしょうか。また林道の脇に通された雨水を流すための側溝も、小動物たちにとっては死の谷。一度落ちれば這い上がることができず、そのまま死んでしまいます。

そしてもうひとつ。砂防ダムがあります。
砂防ダムはどこの山に行っても必ず見ます。土砂崩れの危険を軽減する目的で作られていますが、いまや砂がいっぱいに溜まり、逆に危険性が増しているという指摘もあります。これが小さな川や沢にまで作られ、魚たちがあがってくるのを阻み、結果的に川には
動物たちのエサはなくなってしまいました。

こうして人間の行動が野生動物たちの行動を変え、いまその二つの生活圏が重なりあって大きな問題となっています。

その結果、道路で車にひかれる「ロードキル」で死ぬ動物たちは年間2万匹とも言われ、深刻な問題となってきています。そして里にでてきた動物たちは畑を荒らし、人間に捕獲され、処分されていきます。悲しいことです。

「動物たちはただ、自分たちの仕事(食べること)をしているだけ。」

という五味くんの言葉が心に残りました。
ただ農家さんの側からすれば獣の被害は死活問題。あまりの獣害のひどさに農業をあきらめる人すら出てきているという話もあります。五味くんの印象ではこれから獣害はますますひどくなるようです。新規就農することはイコール獣害と向きあうことになるだろうと言っていました。いま森里人の問題には、行政と一体となった解決策が求められています。

民間レベルでは今回のこのお話会のように、野生動物への偏見をなくし、切り離して考えることのできない森と里と人、そして野生動物たちとの関係を、一緒に考えていく必要があると感じました。オーガニッククロッシングでは、これからも五味くんと協力しながらこの問題に取り組んでいければと考えています。

SSBの衝撃!

P1010204.JPGSSB、食べてみる価値ありです。五味くんたちのグループは処分される野生動物たちの命を生かしながら、地域を活性化させるひとつの試みとして「シカシシバーガー(通称SSB)」の販売を始めようとしています。今回はお話会にあわせて準備してもらいました。

バーガーのバンズ(パン)はなんと五味くんの奥さんの手作り。バンズだけでなく、ソースやミンチ肉にいたるまですべて奥さんが作っているのだそうです。手渡してもらってまずはその大きさにビックリ!野菜は美作の地場産の旬ものをたっぷり使い、ボリューム満点です。鹿肉60%、猪肉40%の合びきミンチで作ったパテは、焼いているときこそ独特のにおいがあるものの、食べると臭みはほとんどどなく、特製のバーベキューソースとの相性もバッチリでめちゃくちゃおいしかったです!これからお祭などにも出店していくようですので、見かけたらぜひ食べてみてくださいね。


なお、オーガニッククロッシングでは五味くんを講師とした「獣害対策セミプロ養成講座」を企画したいと考えています。詳細が決まり次第告知させていただきます。

また、五味くんが主催している「美作ワイルドライフツアー」への参加も予定しています。
参加希望の方がおられればオーガニッククロッシングまでお問い合わせください。

美作ワイルドライフツアーの詳細はこちら


4月16日 熊レンジャー五味くんお話会

熊たちはなぜ、里に下りてくるのか?

本来臆病な性格であるはずの熊たちが、危険を冒してまでなぜ里に下りてくるのか?
日本の森に住む最大の動物である「熊」たちの行動を通して、日本の山や森の現状、動物たちの暮らしが見えてきます。

開催日/4月16日(土) 
時 間/18:00オープン 19:00~21:00
会 場/自然食レストラン「ばんまい」
〒563-0024
大阪府池田市鉢塚3-15-5A
参加費/1000円(要予約) 高校生以下無料
予約・問合わせ 
オーガニッククロッシング出口まで。
info●organic-crossing.org
●を@に変えてください。


岡山県美作市を中心に罠にかかったり、里に下りてきた熊たちを森に返す活動をしている「熊レンジャー」の五味くん。彼の話では、里に下りてくる熊たちは、通常年間1~2頭、多い年でも15~16頭ぐらいでしたが、2010年はなんと60頭!山に、森に、動物たちに何が起こったのでしょうか?


小さなころから動物が大好き、憧れの熊に関わる仕事についた五味くん。その目は人と動物をめぐる厳しい現実を見据えながらも、愛情に溢れています。熊レンジャーとしての経験から五味くんが受け取った「野生の動物たちからのメッセージ」を共有し、一緒に考えることができればと思います。

イメージ (4).jpg画像をクリックすると拡大します。